豆知識
大腸菌

大腸菌とは、人や動物の腸内とくに大腸に多数存在している細菌の一種です。グラム陰性の中等大杵菌に属し鞭毛により固有運動を行なう細菌で、ブドウ糖・乳糖を分解して酸およびガスを産生し、牛乳を凝固し、インドールを産生します。

 

大腸菌は動物の体内だけではなく、糞便に汚染された水など外界にも広く存在しています。元は体内に存在しても病気を起こさない常在菌ですが、一部の大腸菌は遺伝子の変異により人に対して病原性を発揮します。

 

病原性大腸菌には感染後に腸上皮細胞へ侵入して正常な細胞の働きを妨げるものと、エンテロトキシンやベロ毒素を産生して下痢や出血を起こすものがあります。

 

1950年ごろから知られるようになった腸管病原性大腸菌はヒトに対して腸炎を起こし、特に新生児・乳児に対して劇症下痢を起こすため注意が必要です。病原性大腸菌の中でベロ毒素を産生し、人が感染するとHUS(溶血性尿毒症症候群)を起こしたり腸炎に出血が伴うものを、腸管出血性大腸菌と呼びます。

 

代表的なものにO157(オー157)やO111・O26があり、重症化例の多くはO157の感染で、最悪の場合は死に至ります。腸管出血性大腸菌に感染し下痢などの症状が出た場合、一部の下痢止めや腹痛を抑える薬は毒素の排出を遅らせるため一般的には使用せず、点滴により水分を補給します。

 

乳幼児や高齢者などではHUS(溶血性尿毒症症候群)による急性腎不全や脳症など、重症合併症を起こしやすいため、激しい腹痛や水様便がある場合には早めの受診が重要です。腸管出血性大腸菌は熱に弱く75℃1分以上の加熱で死滅するため、肉食の際にはしっかりと火を通すことが有効な予防法です。

 

食中毒以外にも、大腸菌による病気は少なくありません。虫垂炎・胆道の炎症は、大腸菌の侵入が原因となることがあります。膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症の約80%も、大腸菌の侵入によるものです。

 

膀胱炎は抗菌薬の飲み薬で治療可能なケースが大半ですが、重症な腎盂腎炎では点滴により抗菌薬を投与する場合もあります。大腸菌による病気を防ぐためには、便通の改善や適量の水分を摂って尿を出すことにより、大腸菌を体内に滞留させないことが大切です。

 

特に便秘は大腸菌を増加させ体にさまざまな悪影響を起こすため、便秘が続く方は一度医師に相談してみましょう。